鏡山次郎ＨＰ

ふるさとの会文章部会　寅次郎　編

（ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会　文章部会　部員）

花山天文台と夜明けの空、人工衛星

早朝の天体観察

　「星が動いている！？」

　これは、今から５年前の１２月中旬の午前５時半ごろ、公園の手すりのないベンチで仰向けになって腹筋運動をしながら空を見上げていたときに思わず発した言葉だ。

　“飛行機とは違う！一体何なのだろう？”

　飛行機の場合は光が点滅するが、私が見つけたものは光り続けたまま動いているのだ。その動くスピードは飛行機とほぼ同じくらいだった。

　その後いろいろ調べてみたら、私が見つけたものは人工衛星だと判明した。人工衛星は、日の出前の１時間～１時間半の時間帯によく観察されるようで、私が見つけた時刻もその時間帯だった。

　私は、６０歳で京都市役所を定年退職した翌日から、健康のために早朝にウォーキングと体操をするようになり、今年で７年目を迎える。最初の１年間は、朝５時頃に家を出てウォーミングアップの運動をした後に１時間程度のウォーキングをしていたが、近所の公園で体操や筋トレをしている人々を見て自分もその真似をしたくなった。そこで、２年目からは朝３時に家を出て、公園で１クール目の１時間程度の体操と筋トレをした後、二条城の周囲を１時間程度歩き、また公園に戻って２クール目の１時間程度の体操と筋トレをするというメニューになった。そして４年前からは、午前６時半から１０分間、公園の広場で近所の人々が行っているラジオ体操にも加わるようになった。

　人工衛星を見つけたのは、２クール目の腹筋運動をしているときだった。その日以降、私は、運動している間、意識的に夜空を観察するようになった。

　注意深く観察すると、人工衛星はちょくちょく見つけることができる。特に冬場は空気が澄んでいるせいか、５時半から６時にかけて行う腹筋運動の間だけでも、天気の良い日には一日に２個程度は見つけることができた。ちなみに、夏場は日の出時刻が早いので、１クール目の腹筋運動の時間帯である３時半から４時にかけて人工衛星を観察しているが、１週間で３～４個見つける程度である。
　京都の上空では、飛行機は、東西に移動するものが多く、たまに北東から南西方向に移動するものなども見かけるが、人工衛星は、あらゆる方向に移動する。また、人工衛星は一等星くらいに明るく光って見える大きなものから、かすかに見える小さなものまで、大きさはまちまちである。

　人工衛星以外にも、早朝の空を観察していると様々な発見がある。

毎日同じ時刻に同じ場所で同じ方向を眺めると、星や月が毎日少しずつ移動していくことに気づく。

星は、北極星を中心に反時計回りに少しずつ回転して１年後に元の位置に戻る。ベンチからは足元の少し上に北極星が見えるので、北極星の周りに、冬は北斗七星、夏はカシオペア座がきれいに見える。

早朝の月は、西の空の低い位置に最初に満月を見つけることから始まり、その形が日ごとに欠けていくとともに高度が少しずつ上がっていき、半月になる頃には高度が一番高くなる。その後は東方向に少しずつ高度を下げ、三日月の形の頃には東の空のかなり低いところに見えるようになって、その後数日するといつのまにか姿が見えなくなってしまう。

　私の一番の楽しみは、流れ星を見つけることだ。ひと月に１個か２個見つけるのが精いっぱいだが、流れ星が見えている間に願い事をするのは不可能に近いとしても、早朝に一瞬の光の筋を見つけた日は、何か良いことがありそうな気がしてワクワクする。

　また、日の出直前に見える朝焼け雲は、年に２～３回ではあるが、鮮やかなオレンジ色に染まった雲が空一杯に広がる様子（写真左上）を見ることができるのも楽しみの一つだ。

　星を観察していて思うのは、建物が近くにない公園でも、道路の街灯や公園内の照明などの光が視界に入って小さな星がなかなか見つけられないということだ。

　“中学生の頃に郷里で星を観察したときには、周囲の照明の光はまったく気にならなかったのになぁ…”

　山口県の日本海側にある郷里のことをふと思い出した。

　中学生の私は、理科が好きで、部活では科学部に所属していた。科学部では、毎日決まった時刻に、気温、湿度、気圧、風力、風向、雨量などを計測するとともに、空を見上げて雲の種類や動きを観察して、独自に天気予報を行っていた。また、夏休みになると、天気の良い日に校庭にテントを張って合宿し、望遠鏡を使って天体観測を行った。夜空には満天の星が輝き、天の川がきれいに見えた。

ちなみに、当時の私の将来の夢は、天文台や富士山頂の測候所で働くことだった。しかし、高校に入ってからは、日本史や世界史や国語など文系の科目が好になり、逆に物理が苦手になったこともあって、天体観測の仕事に就くことはあきらめることになった。

　そんな昔のことを思い出して改めて気づいたのは、京都の市街地では、夜明け前でも照明の光が溢れていて、天体をしっかり観察できる環境がないということだ。

　そんなことを思っていたら、ふるさとの会ホームページのコラムの部屋に、なにば氏のコラム「ブライアン・メイ、そして花山天文台」（２０２４年２月２７日）が掲載された。そこには、花山天文台について次のようなことが書かれていた（以下は同コラムの内容の一部を箇条書きにしたものなので、ぜひともコラム自体を読んでみてほしい）。

花山天文台は1929年に京都帝国大学営繕課によって設計されたこと。
昔は京都大学の時計台の横に天文台ドームがあったが、街の光害を避けるため、天文台は花山の山に移転したこと。
京都大学では岡山天文台が主力になり、花山天文台は取り壊しの危機に瀕したこと。
アマチュア天文家の発祥の地である天文台を守りたいという人々の熱意で「花山天文台の将来を考える会」が結成され、今もなんとか存続していること。

　このコラムを読んで、１００年近く前でも、京都の市街地は、照明の光の影響（光害）で天体観測がしづらくなっていたことが分かった。
私は、花山天文台がどのような場所に建てられているのかを自分の目で確認したいと思った。

　今年の１１月５日は、午後にふるさとの会が案内する高齢者大学の集合場所である大石神社に行くことになっていたが、午前中は暇だったので、急遽思い立って花山天文台に立ち寄ることにした。運転免許証を持たない私は、午前９時に二条駅から地下鉄東西線に乗り、蹴上駅で降りて、東山ドライブウエイを歩くことにした。蹴上駅を出て三条通の南側を東に歩いて行くと、「粟田口刑場跡」という案内表示が見えてきた。この辺りは江戸時代まで処刑や晒し首が行われた場所だったと言われている。そこから山道を少し上がっていくと、東山ドライブウエイに出た。ドライブウエイだけあって、自動車はひっきりなしに走っていたが、歩行者用の歩道はなく、私以外には誰も歩いてはいなかった。

　“こんな道を歩く物好きは、私くらいしかいないかもしれないな…”

　そんなことを思いながら何度も左右にカーブする道をしばらく上っていくと将軍塚の近くに到着した。そこから平坦になった道をさらに３０分程度歩いて行くと、「京都大学花山天文台」の案内表示が見えてきた。案内に従って左に分かれてのびている道を歩いていると阿含宗のお寺の大きな建物が視界に入ってきた。その前を通り過ぎて、しばらく歩いて行くと道幅はさらに狭くなり、そこから先は天文台への専用道路になっていた。木々に囲まれた道を抜けていくと花山天文台の建物が見えてきた（写真中央）。

　天文台の周囲は木々に囲まれていて市街地は見えなかった。しかし、天文台から少し離れたところまで行ってみると木々の向こうに山科盆地が少し見えることが分かった。

　“天文台と山科盆地の位置関係からすれば、夜になると市街地の照明の光の影響を少しは受けるだろうな…”

　この１００年近くの間に、山科盆地の市街化が急速に進んでいった様子が頭に浮かんできた。

　天文台による天体観測を妨げる光害の問題は全世界に広がっていて、地球上で光害の心配がまったくない観測場所を探すのは至難の業だという話を聞いたことがある。その結果、ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡のように地球の外に観測場所を移す動きが進んでいるということも聞く。

　それでも、私のような天体観察が好きな人間にとっては、花山天文台が身近な山科の地にあることが嬉しくてたまらない。取り壊しの危機に瀕した花山天文台の存続のためにご尽力いただいている方々に心から感謝したい。

コラム「ブライアン・メイ、そして花山天文台」と出会った今年の２月のある朝、前日まで吹き荒れていた嵐がおさまり、雲一つない快晴の夜空が広がっていた。いつものようにベンチに仰向けに横になって腹筋運動をしながら空を見上げると、いつもは見えない小さな星もたくさん見え、にぎやかな夜空になったように感じた。前日までの強風によって地上のよどんだ空気が吹き飛ばされ、大気が澄み渡っているからかもしれないなと思いながら観察をしていると、早速一つ目の人工衛星を見つけることができた。すると、その衛星の近くを移動するもう一つの人工衛星も視界に入ってきた。そして、違う場所にまた一つ別の人工衛星が見えてきた。さらにまた一つ…。

数えてみたら５つの人工衛星が同時に天空を移動していた。快晴の空に散りばめられた星の間を縫うように、人工衛星が様々な方向に向かって移動している様はなんとも幻想的だった。結局、３０分の腹筋運動の間に３０個の人工衛星を見つけることができた。街中でも大気が澄んでいれば星や人工衛星をたくさん観察できることが分かり。光害だけでなく、大気汚染も天体観察に影響することをそのとき実感した。

　今年の１２月１４日（山科義士祭の日）は、ときおり時雨れるという天気予報だったが、３時に家を出たら西の空にきれいな満月が見えた。今日からまた当分の間、きれいな月が見えそうだなと思いながらいつものように公園に向かった。

昨日のテレビニュースによれば、ふたご座流星群が見えるかもしれないということだったので、腹筋運動の間、流れ星を見逃さないように目を凝らして夜空を見上げていた。北風がきつくて、小さな雲がちぎれながら北西から南東に向かって足早に流れていたが、雲の間にはきれいな星空がよく見えた。
　１０分くらい観察を続けていると、やや南西よりの空に一筋の光が走るのが見えた。結構大きな流れ星だった。“やった！”と思いながら観察を続けたが１クール目の腹筋運動の間に見えたのはその一つだけだった。

　午前５時半からの２クール目の腹筋運動のときには、北風がさらに強くなったが、空には雲がなくなっていて、絶好の観察条件になった。
　空を見上げた直後、上空の真ん中あたりで小さな光がスッと流れた。その数分後、今度は少し東寄りの空に大きな光がサーっと流れるのが見えた。時を同じくして、その大きな光の帯の近くを人工衛星が移動するのも視界に入ってきた。西の空低く満月も光っていた。その後も流れ星を二つと人工衛星を一つ見つけることができた。

　“満月と流れ星と人工衛星、こんな天体ショーが同時に見られるなんて思いもしなかったなあ！”

　早朝の天体観察を続けてきてよかったと思った。

　ちなみに、これまで何度か人工衛星を撮影してみたが、私のスマホではなかなかうまく撮れなくて苦労していた。ところが、先日、私が見つけた人工衛星としてはこれまででもっとも明るく見えたものをスマホで撮影したらなんとかその姿が写っていた。元の写真の画像では通常の星と人工衛星の違いが分かりにくかったので、星の部分を拡大したものを添付した（写真右下）。人工衛星は移動しているので、その近く（右斜め上）に写っている普通の星（円形）に比べると移動方向に少し細長く伸びた形に見える。

　健康のために行っているウォーキングや体操や筋トレのついでのようにして始めた早朝の天体観察だが、“今朝も何か面白い発見があるかもしれない…”と、今ではこれが大きな楽しみの一つになっている。


（寅次郎　２０２４．１２．２４）

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