禁裏御家人　山科郷士　起承転結

エピローグ　歴史の継承

鏡山次郎　著

「禁裏御家人　山科郷士　起承転結」（2017年.2月28日　出版）

	（３）戦後の山科
	戦後になって、昭和二二年（一九四七）にＧＨＱの指揮の下、日本政府によって行われた「農地改革」は、地主制度を解体を目指したもので、これによっても地主層は大きな影響を受けた。当初は「農村地帯」であった山科も、その後大きく変わり出す。昭和三〇年（一九五五）年頃から、京都市の住宅地として開発の波が押し寄せ、人口が爆発的に増え、当時四万人だった人口が、二五年後の昭和五五年（一九八〇）には一四万人となった。 　昭和三三年（一九五八）には東山ドライブウェーの起工式が行われ、また同年一〇月には名神高速道路の京都区間の起工式が山科で行われ、これは昭和三八年（一九六三）に開通した。また翌年の昭和三九年（一九六四）には国鉄東海道新幹線が六条山と音羽山の両トンネルを抜けて山科中央部を横断するようになった。昭和四〇年（一九六五）には、外環状線（山科～観月橋間）が完成し、昭和四二年（一九六七）に五条バイパス（現国道一号線）が開通した。昭和四七年（一九七二）には、大石道が迂回するコースとなる花山バイパスが開通。昭和四九年（一九七四）には北陸方面へ向かう湖西線（山科～近江塩津・敦賀）が開通し、平成九年（一九九七）には、地下鉄東西線が開通し「御陵」「山科」「東野」「椥辻」「小野」などの駅ができた。京阪電車京津線「九条山駅」「日ノ岡駅」は廃止、京阪電車は京津三条～御陵間が地下鉄となった。地下化に伴い、蹴上～御陵間の三条通（四ノ宮－四ツ塚線）も拡張された。こうして現在の山科の交通網の体系が完成することとなったのである。 　また、人口の爆発的増加は同時に公立学校の建設ラッシュももたらした。終戦の時点では、山階・勧修・鏡山・音羽の四校であったのが、小学校では安朱・大宅・陵ヶ岡・山階南・百々・大塚・小野・音羽川・西野の一三校に増えた。また中学校は昭和二二年（一九四七）に開校し二年後に現在地に移転した山科中学だけであったが、その後、花山・音羽・安祥寺・勧修・大宅と六校に増えた（公立のみ）。東総合支援学校を含め、京都市立の小・中学校は合わせて二〇校になっている。 　現在の山科は、昭和三七年（一九六二）に京焼・清水焼の生産団地（清水焼団地）が建設され、京仏具・扇子の生産団地もある。山科は砥之粉の産地で、数は少なくなったが現在も製造工場があり、伝統産業の技術を活用した金属箔・金属粉などを取り扱う先端産業もある伝統産業と先端産業が共存している地域となっている。 　農業は宅地化により衰退したが、それでも米のほか、きゅうり・ 大根・なすなどの近郊野菜も生産されている。また、京の伝統野菜である「山科なす」も最近注目を浴びてきている。南部では観光農園が運営されており、ぶどう・いちご・さつまいもなどを観光客向けに栽培、販売している。 　「京都市東山区山科」は、昭和五一年（一九七六）一〇月一日に「京都市山科区」として独立した。現在の山科は多くの魅力を持っている。行事では随心院「はねず踊り」、清水焼団地「清水焼の里まつり」、年末の「山科義士まつり」などが有名であるし、春や秋には山科疏水や毘沙門堂・大石神社・ 勧修寺、日向大神宮などへ、区外からの観光客も多い。このほかにも,秋の山科各神社で一斉に行われる「山科祭」や、小山地域の「二九（二の講）」、夏の地蔵盆など、各社寺・各地域で行われている伝統行事も多く残っている。 　今日の山科は、明治初期の「京都府宇治郡山科村」からは想像もできないような「都市」としての発展を示している。
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