ふるさとの会文章部会　山科人　編

（ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会　文章部会　部員）

登校見守り活動

　毎朝、通学路の「見守り活動」をしてもう2年目になる。横断歩道に立って子どもたちを安全に渡らせていると自負している。あいさつだけでなく、「毎日ご苦労様」と通行人から声を掛けられると、素直にうれしい。

雨の日など、カッパを着ての誘導は視界も悪く、車が完全に止まっているかの確認はなかなか難しいものだ。しかし中には、傘をさしながら片手で旗を振っている担当者もいる。ドライバーにしっかりアイコンタクトをとっているとは言えないし、危険だ。またむやみに旗を振り回している人もいる。工事中の道路でも同じようなガードマンを時々見かけるが、いったい自分の仕事に対する誇りや責任を持っているのか、とつい思ってしまう。そういう中でも自分なりに自信を持って毎日やっているつもりだ。

　さて先日、小学校から校長とPTA会長名でA4サイズ１枚の手紙が届いた。「令和７年度地域委員と児童の登校について」と題したもので、来年度から地域委員（登下校の見守り活動をする）が廃止され、「登校班を編成しない」というものである。つまり集団登校はしないで「各自登校」をするという。

　その手紙には、登校班について「集団登校については、様々な課題を抱えておりました」とその課題の具体的な項目が挙げられている。以下引用してみる（各項目の番号は筆者がつけたもの）。

① 暑い中、皆が集合まで一定の時間以上待つことによる熱中症や事故の危険

② 集合場所での落書きや騒音トラブル

③ 集合場所の確保がしにくい、また集合場所を設定する責任所在のあいまいさ

④ 町毎の児童数の差が大きく、町としての登校班編成の難しさや人数が多い班については長い列で登校することによる事故の危険

① について。夏とはいえ朝の登校時間に熱中症が起こるのだろうか？数十メートル先で班ごとに集合する様子を毎日観察しているが、早く来た子供たちはランドセルをおいて鬼ごっこをしたり、おしゃべりをしたりしている。微笑ましく感じている。遅い子を待ちながら上級生との会話があったり下級生の面倒を見たりする、短いけれど交流の時間がそこにはある。少しも無駄な時間ではない。地域の有意義な時間が流れている。

② 子どもがいたら「落書きする」「騒音」を出す、当たり前ではないか。むしろそういうことが起こり、大人から注意を受けたり叱られたりすることで地域の中で子どもは成長するものではないのか。

③ 十数人の子どもの集合場所が確保できないほど狭いところは果たして本当にあるのだろうか。そのうえ「責任所在のあいまいさ」が大手を振って理由付けにするほど無責任な大人が増えてきたのだろうか。狭くても大人が融通を付けて軒や玄関を提供して、子どもたちを優先的に見守ってやるのが日本人の美徳であったのではないか。

無人の横断歩道を渡る小学生が渡りきったところで、ドライバーに頭を下げている場面ばかりをつなぎ合わせた動画（おそらくドライブレコーダー）を見たことがある。中国語の字幕が出ていたから、おそらく対象は日本人ではないはずだ。「子どもの通る横断歩道では必ず止まる」「子どもたちは横断したあとドライバーに一礼をする」そんな日本人はすばらしいことでうらやましいことなのだ。

若いころ、集団登校する子どもたちに向かって合掌する老女を見かけたことがある。思わず笑ってしまったが、その老女にとって子どもは神や仏なのだ。でもその気持ちは今頃になってではあるが、わかってきたように思う。子どもの出生率が低くなったことを嘆く声がよく聞かれる。私も孫ができたからなのか、つくづくと子どもが愛おしく思えてしかたがない。子どもは宝物であるべきだ。

④ 確かに長い列ができる班がある。歩く速度の遅い子がいるとどうしても列が長くなる。横断歩道ではできるだけ詰めさせるべく、少し先頭を待たせて一気に渡らせるようにすれば済む「技術的な問題」である。事故が起こらないように見守るスタッフの研鑽は必要だ。また、通学時間帯に付近を走る車両は少々の時間にゆとりを持って通行すべきだ。また通学路の路側帯に駐車したりするのも大人のモラルのなさである。車を避けて通るのに歩行者は車道に大きくはみ出なければならない。せめて通学時間は子どもを優先させる、この意識をぜひわれわれが持つべきなのだ。各自がめいめいバラバラに登校する方が危険だ。

それではなぜこのような決定がされたのか。この結論に至るのに大きな欠落部分がある。それは地域委員だけでの議論なのである。何十人もいる「旗振りの老人」の存在がない。毎日横断歩道に立っているボランティアのわれわれには議論する権利がないのか？　毎日子供と一緒に途中まで子どもと一緒に歩いているお母さんがいる。かなり遠くなるまで立って手を振っている保護者がいる。地域委員だけで地域の子どもの安全が守れるのか？　それにもまして、町内会、自治連はこの決定に何らかのアクションを起こしているのか？　なんら反応は見られない。見守り活動のお世話をしてくださっている方から「来年からはご自分の判断でやってもらったらいいですよ」と言われた、という話を聞いた。何とも無責任な発言である。黄色い旗やユニフォームのジャケットやジャンパー、帽子の支給だけを采配する世話だけすればいいと考えておられるようだ。

ここまで書いてきて、気づいたことがある。アメリカの大統領選挙、そして兵庫県知事選挙の世間の反応である。この問題と何か共通するものはないだろうか。

CO₂の排出と気候変動問題について問われると「フェイクだ」の一言で環境問題には言及しない。告発文書で亡くなった人がいることを質問すると決して答えず、話題をそらせる。「SNSで拡散された情報で投票率が伸び、当選した」、という記事もよく目につく。将来の事をじっくり考えずに、目先の判断だけで熱狂的に支持する心理は危ない。過去の歴史でさんざん学んできたはずではないか。そういうことを考えているのは自分だけなのだろうか。アメリカという国に住む人が選択した結果であるから、外国からどうのこうのは言うべきではないだろう。兵庫県しかり。

しかし、検証は必要だ。「ノリ」で一票を入れたり、「邪魔くさい活動だから」という理由で解散決議を出したりしていないか。十万円以上もする子どものランドセルに金を出すのに、安全のための集団登校には理解をしない親がいま確実に日本に増えているのが恐ろしい。

（山科人　２０２４年１１月２６日）

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