鏡山次郎ＨＰ

ふるさとの会文章部会　なにば　編

（ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会　文章部会　部員）

KYOTOGRAPHIE2025で受け取ったメッセージ
その１　レティシア・キイ

今年のKYOTOGRAPHIE（京都国際写真祭）のテーマはHUMANITY（人間性）。素晴らしい作品ばかりで感動しました。その気持ちを忘れないように、特に印象的に残ったアーティストと作品について記録として残しておきたいと考えました。

その１では若いアーティスト、そしてフェミニストのレティシア・キイ（Laetitia Ky）を取り上げます。”Love & Justice”と名付けられた作品群は祇園のASPHODELで、京都で撮った写真は出町桝形商店街のアーケード、およびKYOTOGRAPHIEの拠点カフェDELTAで展示されました。

レティシアはコートジボワール（象牙海岸）出身で、1996年生まれの若いアーティストです。彼女は自分の手法をヘアー・スカルプチャー（Hair Sculpture）と呼んでいます。このスタイルを確立したきっかけは彼女が16歳の時に髪を痛め、有害な化学物質の入ったトリートメント剤で髪を失うという経験をしたことです。当時、彼女の住んでいた地域では生まれつきの縮れ毛を特殊なトリートメント剤でストレート・ヘアーに変える縮毛矯正を行う若い女性が多かったそうです。また、肌を白く漂白する人もいました。つまり、黒い縮れ毛、黒い肌に生まれたのに、それを恥じるような空気があったのです。

レティシアはアメリカでナチュラル・ヘアー・ムーブメントが起こっていることを知り、「自然な髪は美しい」と確信しました。そのメッセージを多くの人に伝えるため、18歳のときにヘアー・スカルプチャーで植民地時代以前のアフリカ女性の美しいヘアー・スタイルを再現した写真をインスタグラムに投稿したところ、多くの黒人女性からの支持を得て、国際的にもその名が知られるようになりました。昔の女性の髪形は美しいだけでなく、個人のアイデンティティーや職業などによって異なり、髪型は既婚、未婚、農婦、漁師などのシンボルでもあったのだそうです。

レティシアは髪型で世界中の人々にメッセージを伝えることができることを知り、インターネットを使ってヘアー・スカルプチャーの作品を次々と発表していきました。

彼女は縮毛矯正への批判だけでなく、女性を不当に扱うのが当たり前の環境を変えたい、励ましが必要な人を元気づけたいと考え、変革を訴えています。訴えるといっても声高に男女平等を叫ぶのではなく、ヘアー・スカルプチャーによって、ユーモアを交えながらストレートにアフリカの女性たちが経験する理不尽な現状を伝え、それを変革するためのメッセージを送っています。

たとえば、胸のふくらみを器具などで押さえるbreast flattening（乳房平坦化）が家族によって強制される習慣があります。年若い少女の胸の発育を抑えるため、ベルトやバインダーや石で胸を圧迫したり、熱したヘラを当てたり、ほとんど虐待のようなことが家族によって行われるのです。

胸のふくらみがないかのように見せるのは、不必要な注目を避ける、女性らしく見えないようにする、妊娠やレイプを防ぐなど、女性を守るための手段とのことですが、それは不自然で著しく不健康な方法です。それを女性に強いるのは間違っているとレティシアは考えます。改めるべきは男性で、男性がレイプを当たり前のようにとらえている点が問題なのです。また、female genital mutilation（FGM 女性器切除）の習慣が根強く残っている地域があり、多くの女性が健康被害を受け、後遺症に苦しんでいます。さらに、レティシアは児童婚、性暴力を含めた女性への暴力、生理を不浄とする考え方などを批判しています。このようなアフリカの女性の苦しみをなくしたいと考えるレティシアはアクティビストでもあります。

レティシアは女性たちに自分の生まれ持った身体と自分の中身（心）を愛するようにと語っています。女性への教育が無駄という考え方が今も蔓延している地域もありますが、女性が自立できるようにするためには教育が必要だと訴えています。そして、「アフリカのフェミニストとして私は女性が沈黙させられ忘れ去られる状況を変えていく義務がある」と力強いメッセージを発信しています。

今回のレティシアの写真展示によって、私もアフリカ女性の苦しみについて知ることができました。ユーモラスで斬新なヘアー・スカルプチャーをアートとしてただ楽しむこともできますが、その背景を知ることは大切だと思いました。

背景に辛い現実があっても、目をそらさず、改革に向かって一歩一歩進む努力をすることが必要です。レティシアはアフリカの社会問題を伝えていますが、先進国と呼ばれる国々にも根強い差別、格差、偏見、暴力があります。改善のための姿勢はどんな地域でも大切です。「黙っていないで、声を上げよう」とレティシアは女性たちを励まします。

レティシアが京都で撮った写真は社会的メッセージではなく、ヘアー・スカルプチャーで京都、特に出町桝形商店街のイメージを伝えるものです。買い物かご、急須など遊び心に満ちていて、楽しそうです。

なお、レティシアのヘアー・スカルプチャーは写真を撮った後は、すぐに解体されます。何時間もかけて作られた作品ですが、土台となる地毛の部分がきつく編み込まれるので痛くなり、エクステとワイヤ（針金）を使って作成されたスカルプチャーが重くなることもあり、頭と体に負担がかかります。作品はスカルプチャー（彫刻）として残ることはありませんが、写真として長く残ります。一瞬をとらえ、それを永遠に残すことができる写真の力は大きいと感じました。

彼女の創作活動を支えているのは妹のフロレンシアです。妹なくしては作品が作れないとのことです。また、レティシアはTEDでもわかりやすいメッセージを伝えています。興味のある方はぜひ一度聞いてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=5VMqDfuU8QM


（なにば　２０２５年５月２７日）

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