ふるさとの会文章部会　なにば　編

（ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会　文章部会　部員）

読書会のすすめ

　読書会に参加するようになってから、１０年ぐらいになります。最初はひっそりと京都の街中のカフェに数人が集まって、本の紹介をし合うという小規模なものでした。秘密の読書会のようで楽しかったのですが、残念なことに主催者の方の事情で維持がままならなくなり、フェイドアウトしてしまいました。

　その後、人数が十数名となる読書会に参加するようになりました。その読書会は現在大阪、京都、東京で不定期に開催されています。パンデミックのときは実際に会って話し合うことができず、オンラインで開催されました。

　日本最大の読書会と言われるのが「猫町倶楽部」です。年間延べ9000人が参加しているとのことです。オンライン読書会には全国そしてたまに海外からも参加者が集まります。１回の読書会に数十名が参加しますが、いくつかのブレイクアウト・ルームに分かれて、実際には６～７人の少人数グループで話し合います。この読書会は本についてのみならず、「シネマトーク」という映画についての議論の場もあります。私は京都の２つのミニシアターの会員で、よく映画を見に行くので、ときどきこの「シネマトーク」に参加します。お正月には2024年度の新作映画の個人BEST３を発表するオンライン・イベントがありました。全体の集計結果は出ていませんが、１位は収容所で何が行われているのかわかっているのに、それに関心を持たず収容所の隣の家で贅沢に幸せそうに暮らす所長の家族が描かれる「関心領域」だと思います。実際の残虐な場面を一切出すことなく、無関心の恐ろしさを伝える映画です。ホロコーストに限らず、これは世界中どこにでもある普遍的なテーマだと思いました。

「猫町倶楽部」は名古屋発祥で、共通言語は日本語ですが、海外在住の日本人や日本語ができる外国人の参加もあり、世界に開かれていると言ってもいいでしょう。また、作家をゲストに迎えるなど、魅力的なイベントもあります。

一度、平野啓一郎の発表前の短編集の中の１作を読んで、感想を述べたり、作家本人に質問したりするという面白いイベントに参加したことがあります。平野氏も自分の作品がどう読まれるのか興味津々のようでした。平野氏は学生時代に『日蝕』で芥川賞を受賞した作家です。『日蝕』はなんらかの新人賞に応募した作品ではなく、出版社に持ち込みして出版が実現した小説です。擬古的な文体が特徴ですが、昭和時代後半にも塚本邦雄や須永朝彦など凝った擬古文を書く人がいたので、違和感なく読めました。平野氏は現在は平易な現代日本語を使って現代社会あるいは近未来社会に生きる人間を描いた作品を書いています。

ということで、私はこれまでに３つの読書会に参加し、人々が本を読まなくなり、町の本屋が消えていくという話をよく聞く中、読書が大好きな人々、特に若い世代の人が多いことにも気づきました。タブレットで電子書籍を読む人もいますが、読書会に集まる人たちのほとんどが紙の本を持ってきます。また、ブックカフェもあちらこちらに誕生しています。読書会に集まる人たちは知的好奇心が旺盛な少数派なのかもしれませんが、若い人たちが多いので、紙の本が存続するだろうという希望も湧いてきます。

ブックカフェの中で蔦屋書店は、だれにも邪魔されずに本を読んだり、書き物をしたりという作業ができるシェアラウンジを提供しています。私も１か月１～２回利用しています。実は、このブログ記事も蔦屋で書いています。うちで作業をすればお金がかからないのですが、うちでは雑事や雑念が邪魔をしがちです。一方、シェアラウンジでは一人一人のスペースでみなさんがPCに向かって作業をしているので、私も落ち着いて作業ができます。飲み物やちょっとしたスナックも提供されます。今もハーブティーとお菓子を片手にこの文章の打ち込み作業をしています。

読書会の話に戻りますが、どの読書会にもいくつかの形式があります。大きく二つに分けると、みんなが同じ本を読了した上でそれについて語り合う課題本読書会と、個々に自分の好きな本を持ち込んで紹介し合う紹介本読書会です。

課題本読書会の場合、みんなが同じ本を読んでいるので参加者は初めて出会う相手であってもいわば同志のような雰囲気になります。課題本読書の特殊なパターンとして、本の一部をメンバーが順番に朗読するという形を取り入れる場合もあります。また、メンバー各自が担当箇所を決め、その箇所について語るというやり方もあるそうです。

紹介本読書会には他の人が紹介してくれた本により、これまで自分が知らなかった未知の世界を知ることができるというメリットがあります。

猫町倶楽部の主催者山本多津也氏の『読書会　人が本で交わる場所』（2019）に読書会の重要な特徴として「アウトプット（本について語る）なしではインプットと呼べない」という点が挙げられています。受動的に読書するだけでは身にならず、それについて語ることでその内容をしっかり吸収していくということでしょう。また、自分の言うことを少しでも相手にわかってもらえるように努力する過程で、ばらばらになっていた自分の考えの小片がまとまり、思考の整理ができます。

山本氏は「読書でグレーに留まる力を養うことができる」とも言っています。はっきりとした結末や結論が提示されていない、つまり読者一人一人が自分で考えなければならない作品を読むことによって「曖昧さの許容」ができるようになります。この世には白黒がつかないグレーゾーンがたくさんあり、曖昧さを抱え続けることが知性の特性でもあります。山本氏は「脳が汗をかく読書」という表現で、いわゆる難解とされる本、普段一人で読むには手を出せない本を読書会の課題本にすることを薦めています。

どの読書会でも、①本は読了する　②他の人の言うことを否定しない　③ひとりでしゃべりすぎない（1人当たりの持ち時間を決める）　④営業（売り込み）・勧誘（宗教・政治信条など）禁止　などの基本的なルールがあります。それ以外に、暗黙の了解として、ヒエラルキーを作らず、初めての参加者が心地よく過ごせるようにするというのもあると思います。山本氏は「新しい人が入ってこないコミュニティーは密室のようなもの」と言っています。参加回数が多い人が「古参感」を出さないようにすることも大切な要素だそうです。
ただし、決まったメンバーだけで行う読書会もあります。アメリカの作家カレン・ジョイ・ファウラーの小説『ジェイン・オースティンの読書会』（2004）では数人の仲間が交替で自宅で読書会を開き、お茶とお菓子を楽しみながら、ジェーン・オースティンの作品について語り合います。オースティンの読者は一般的に女性が多いようですが、この読書会には一人だけ男性が参加します。読書会で作品や登場人物について感じたことを語り合いながら、一人一人が自分自身の問題に向き合っていくという内容です。この小説では本を読み、それについて語ることで、自分自身を客観的に見直すことができるという可能性をポジティブに示しています。

刑務所での読書会も参加者は固定しています。ノンフィクションの『プリズン・ブック・クラブ　コリンズベイ刑務所読書会の一年』（2016　アン・ウォームズリー）と『刑務所の読書クラブ』（2017　ミキータ・ブロットマン）では、両方とも受刑者が読書を通して自分自身について深く考えるようになる様子が描かれています。刑務所の読書会ではいわゆる難解本や古典の長編が課題本に選ばれることが多く、重厚な本ばかりの課題本リストには驚かされます。30年の刑期中に刑務所にいながら学士号・修士号を取得した受刑者の話も出てきます。

『プリズン・ブック・クラブ　コリンズベイ刑務所読書会の一年』の翻訳者である向井和美氏の著書『読書会という幸福』（2022）には読書会に30年間参加していること（その間に亡くなった人もいる）、そして深い話をしたいと願う人が多いことが書かれています。

『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』（2019改訂増補版　吉田新一郎）は主に学校での読書会を奨励しています。読書会の特徴として、①自分を表現できて楽しい　②読むことが好きになり、読む力もつく　③適度に刺激があり、自分を知るきっかけになる　④自分では気づかなかった見方や考え方などの学びがある　⑤話し合いを通して他人を知り、また自分を知ってもらい、人間関係が築ける　というメリットを挙げています。読書会は人間の知的ニーズと社会的ニーズ（相互理解）の両方を満たすものとのことです。
よく参加している読書会の分会として、今年山科・滋賀在住の人たちが「ことのは読書会」を立ち上げます。「ことのは」には「湖（滋賀）・都（京都）・葉（ことば）」と「言の葉（ことのは）」というダブルミーニングがあります。初回の「ことのは読書会」を３月に南草津で開催することが決まりました。

「ことのは読書会」の今後の課題は会場確保です。大阪や京都の街中には貸しオフィスがたくさんあり、予約も簡単ですが、山科・滋賀には十数名が集合でき、テーブルや椅子がそろっている適切な民間の貸しオフィスが少なく、開催する場合は公的施設の会議室か研修室を確保しなければなりません。多くの場合、かなり前に予約が埋まっています。参加者は仕事のある人が大多数なので、土・日・祝に読書会を実施することになりますが、週末や祝日は場所確保の競争率がますます高くなります。解決策が見つかればいいんですけど・・・。

読書会は自宅やカフェで二人か三人でもできます。しかし、読書会は敷居が高いと思っている人もいますし、みんなの前で話すのが苦手という人もいます。普段のカジュアルなおしゃべりでは寡黙な人はほとんどいないので、ちょっと考えすぎなのではないでしょうか。読書会が気張らずに気楽に参加できるインプット・アウトプットの機会だということをもっと多くの人に知ってもらいたいと思います。

（なにば　２０２５年１月２８日）

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