ふるさとの会文章部会　鏡山次郎　編

（ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会　文章部会　部員）

六所神社（北花山）

北花山の六所神社

　私が生まれたのは１０月１４日である。当時、毎年１０月１６日に行われていた「山科祭」の準備のために、母が自宅の障子を洗い、和紙の貼り替えを行っている時に陣痛が来て、夕刻生まれたという。当時はむろん自宅での出産だった。産婆さんがきて無事取り上げてくれたのだが、姉の時は産婆さんが間に合わず、大変だったとも聞いた。現在も建物は建て替えられたが、生まれた場所に住んでいる。

　山科では戦後しばらくまでは、どの神社も人が神輿を舁（か）いて巡っていたが、その後、舁き手が少なくなった時期があって、台車に載せたり、トラックで運ぶように変わってきた。

　しかし、北花山の六所神社だけは、親神輿も子供神輿も、ずっと神輿を人が舁いて巡行させてきたというのが地域の誇りだ。現在も「六青会」という地域の若い人たちを中心に、神輿が舁かれて巡行している。

　明治時代初期に京都府庁に出された文書や神社の石碑によれば、北花山の六所神社は、その起源を、元慶寺を開基した僧正遍照によって勧請され、仁和３年（８８７）に創建、のち北花山の産土神（氏神）になったとしている。１１００年を超える古い歴史を有している神社でもある。

　六所神社は平成になって大改築が行なわれ、現在の姿になっている。大改修の時には、父が氏子会長をしていた。神職は常駐していない神社なので、当時は三ノ宮の宮司が来ていた。このため、現在でもよく三ノ宮の傘下にあるようなことも言われることがあるが、歴史的にみればれっきとした独立の神社である。

　神社の石碑によれば「六所」と称するのは伊勢の天照皇大神をはじめとした六神を奉祀しているからとされているが、これには異説もあり、「六所とはムソ（墓所）から転脱した表記であり、ムソ→六所（ムショ）→ロクショ」（（『清水寺史』上、２６～２７ページ）というのもある。その説に従えばこの地の山は祖先を埋葬した山であり、祖先崇拝・祖霊信仰からきたとも考えられる。上花山の神社もやはり「六所神社」と称しているのも、同類の意味であろうか。

　「花山」はもとは「華頂」と呼び、平安遷都から花山に変わったという。中世には北花山・下花山・上花山と分かれていたが、その後、下花山は北花山に合併した。またその他に、古文書には「南花山」「西花山」というのも見られ、「西花山は現在の西野山ではないか」というのも有力だから、そうすると「花山」は、もともとは広い地域、東山連峰の山科側丘陵地帯を指していたのではないかとも思われる。

　北花山の六所神社の親神輿は、山科の神輿で唯一「八角形」をした神輿であり、格式が高いとも言われている。毎年１０月の第３日曜日（山科祭）には、地域を巡行し、渋谷街道で隣の三之宮の神輿と共に、勇壮な「舁き挙げ」が行われるのも、もうすっかり山科の名物となっている。（鏡山次郎　２０２２．２．２２）

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