鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

山科における近代教育（幼児教育・初等教育）にも大きな貢献をしてきた寺院････本願寺山科別院（西御坊）【山階学区】

本願寺山科別院（西御坊）寺門

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　本願寺山科別院（西御坊）は、浄土真宗の寺院であるが、近代山科の歴史の中でも、重要な役割を果たしている。

　山科本願寺は天文元年（１５３２）８月に焼亡したが、山科別院はそれからちょうど２００年後の、享保１７年（１７３２）に北山別院の旧堂を移築して創建されたもので、本願寺中興の祖、蓮如上人ゆかりの場所となっている。

　安永３年（１７７４）３月に現在の本堂が建立され、天明元年（１７８１）には鐘楼・太鼓楼、茶所等が増築されている。

　また中宗堂は文政６年（１８２３）に「蓮如堂」として本堂の南に建立されたものである。中宗堂内に安置されている蓮如上人木像は、元は本山（西本願寺）に安置されていたもので、山科別院中宗会・報恩講には、この木像を迎えて法要を行っていたが、明治１７年（１８８４）４月に山科別院中宗堂が「本山中宗堂代」となり、以後、蓮如上人木像は永く山科の地に安置されることとなったのである。

　平成１０年（１９９８）には、本堂・御殿の修復、書院の新築が行われ、平成２３年（２０１１）には、旧茶所跡に「多目的会館」が新築された。

　この寺院が「近代山科の歴史の中でも、重要な役割を果たしている」というのは、この寺院内に多くの教育施設が誕生したからである。

　明治５年（１８７２）５月６日には境内の「対面所」を借りて「東野校」（現・山階校）が、児童数２５５名で開校した。「対面所」は本堂の北側にあった山科別院創建時からの建物で、平成１２年（２０００）頃に解体され、現在は駐車場となっている。建物は約１３０坪ほどの広さであったという。山科の３分の２以上の地域から児童が通う学校であり、また（宇治郡第二区の）「区務室（役場）」も設置された。学校は明治１３年（１８８０）に現在地に移転し「山階校」と校名を改称したが、約８年の間、この地は山科における近代教育の中心となったのである。

　さらに、昭和に入って山科で初の保育園、「山科保育園」が設置されている。

　大正１５年（１９２６）１０月１６日に「山科村」から「山科町」になった時、「山階学区会」は、新年度（昭和３年度）の新事業として「公立幼稚園設立」を企画した。新年度予算案に「幼稚園新設費　金３４６円余」を計上したが、昭和２年（１９２７）３月１７日、町議会の予算審議の結果、残念ながら「目下の財政状態は之を許さず」として、「否決」されてしまった（『大正新報』第１９号）。昭和２年３月というのは、有名な「昭和金融恐慌」が勃発した月である。

　しかしその後、元山科町助役山本光之助の発起で、山階校附近に私立幼稚園を設置すべく、昭和８年（１９３３）に公益社団法人を組織し、大野木萬次郎、辻倉文平、中川勘之祐、村田傳三、海老名専之助等が理事となり、「月掛講」を組織する事となった。そして、山科別院内で発足したのが「山科保育園」であった。詳しくはわからないが園児は数十名はいたと思われる。おそらく東野校（山階校）跡の「対面所」を借用したのではないか。そして昭和１６年（１９４１）、御陵に寺西幼稚園が発足すると、園児たちはそちらへと移り、「山科保育園」はその役割を閉じた。当時の新聞は次のように報じている。

「山科の寺西幼稚園拡充、西本願寺を併呑（へいどん）す。京都山科阿弥陀寺（住職・寺西聴學氏）の寺西會館に今春創設した「寺西幼稚園」は開園後僅かに半歳であるが、内容外観共に整備し、地方啓発の為、国策線上に貢献する所大であるが、今回西本願寺別院の「山科保育園」閉鎖に伴い、その園児の中、三十名を収容することになったので定員百名に園則を改定し、十一月四日より陣容を拡大した。随って山科保育園勤務の保母長山田清江、保母黒駒幾野（有資格者）の両名も転勤服務するに至ったので益々前途の発展性を期待されている。」（『浄土週報』昭和１６年（１９４１）１１月１６日付）

　本願寺山科別院（西御坊）は、蓮如上人の功績を伝えると共に、山科における近代教育（幼児教育・初等教育）にも大きな貢献をしてきた寺院なのである。（鏡山次郎）