鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

荒地で風雪に耐えて、長年の修行をされた（霊験）あらたかなお地蔵さん･・･･千本町の地蔵尊【音羽川学区】

音羽千本市営住宅にある地蔵尊（地蔵盆時に撮影）

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　昭和１５年（１９４０）の山科の人口は２万６２３２人で、これから推測して、戦後まもなくの山科の人口は約３万人程度であったと考えられる。しかし、その５０年後の平成２年（１９９０）の人口は１３万６０７０人と、１０万人以上の増加をみることになる。

　その最初の波が戦後すぐにやってきた。いわゆるベビーブームの到来である。そのため住宅が足りなくなり、「市営住宅」の建設が始まった。昭和２７年（１９５２）年３月３１日に制定された「京都市市営住宅条例　第９０号」の施行により、京都市の各地に市営住宅が建設されることになったが、山科で最も早かったのが、音羽小学校の南側の竹藪を開いて畑になっていた所に建設された「京都市音羽市営住宅」（音羽森廻り町）であった。昭和２７年に３６軒が建設されている。定かではないが、当時の市営住宅は２戸続きの平屋建てがいくつも並んでいるような形であったと記憶している。

　その後、昭和２８年（１９５３）に、御陵市営住宅２０軒、日ノ岡市営住宅１２軒、音羽千本市営住宅２０軒、昭和２９年に、御陵市営住宅１４軒、音羽千本市営住宅１２軒、大宅市営住宅１０軒･･･と続き、平成６年（１９９４）勧修寺市営住宅１０５軒など、実に合計２３６２軒（注１）が建設されている。

　移り住んだ人たちは、主に勤労市民層で、子育て世代の人たちであった。新しい住居を得て、人々は新しいつながりを求め、自治会や町内会ができた。そして最初に取り組んだのは、「地蔵盆」など、子ども達のための行事である。


　竹藪を切り拓いてできた音羽千本市営住宅（音羽千本町）には、公園内に２体のお地蔵さんが祀られている。祠は銅板葺きの屋根、観音開きの扉の奥に高さ約３０センチ程のお地蔵さんの姿が見える。祠の正面には紫の幔幕があり、鉦が吊り下げられている。祠横の説明書には、半ば放置状態にあったお地蔵さんを当地に安置した旨が記されている。

「地蔵尊の由来　此の地蔵さんは音羽川と当地区内の荒地で風雪に耐えて長年の修行されたあらたかなお地蔵さんです。昭和三十年あゆみ会が発足、皆さんの御協力に依り当地に安置され守り本尊とされる。それ以来町内には大きな災害もなく毎日を無事過ごせることは偏にお地蔵さんの御庇護のお陰と感謝し、ここに町内一同協力して孫末代までお奉りいたしましょう　合掌　平成二十四年八月　音羽千本町々内会」（注２）

　コロナ禍でその後の変更があるかも知れないが、１０年ほど前の調査では、地蔵盆は例年８月の第３日曜日に市営住宅公園内の祠前で行われていた。お地蔵さんには飾り付けが施されお花・お供えがそなえられる。町内会の主催で参加者は大人３５名子ども６０名の計９５名程度であった。住職による読経・おやつ・飲み物・福引き・ゲーム（大人・子どもとも）があり昼食も用意された。

　こうした地蔵盆は、昭和２８年に団地が出来て、３０年にお地蔵さんを祀り、それ以後、団地や町内会の人々の親睦と交流を深める機会として続けられてきたに違いない。

　地蔵盆は、山科では２００カ所以上で行われているが、おおざっぱに言って、７０年以上続いているのは、その４分の１程度で、あとの４分の３は、こうした新興住宅に若い人たちが移り住んで来て始まったものである。

　しかし今や、新たに地蔵盆を始めた「若い人たち」も高齢化し、子ども達もずいぶんと少なくなった。マンションもずいぶん建って、地域の中で人々の交流も疎遠になりつつある。

　戦後に団地に越してきた人たちが、新たなつながりと交流を求めて始めた地域行事を、今後どのように継承、発展させて、次世代につないでいくのか。そしてまた、地域の人々との親睦と交流、さらには互いに協力し合う関係をどうつくっていくのか、山科の各地域は今、大きな課題を抱えている。（鏡山次郎）


（注１）軒数などの数字は、佐貫伍一郎著『鄕村から市街へ　山科百三十年土地利用の変遷』燈影舎、２００３年、ｐ５７を参照した。
（注２）調査後に立て替えられたと思われる祠横の説明書では、内容に一部変更（昭和３０→昭和３９）が見られる。この説明書は２０１４年１１月１９日段階のものである。