鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

一本の樹木の中にも、貴重な学校の歴史が刻み込まれている･・･･勧修小のクスノキ【勧修学区】

大きく育った勧修小のクスノキ（３本植樹されたうちの、残った２本）

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　勧修小学校の校庭南西側に、学校のシンボルともなっている名木「クスノキ」がある。平成６年（１９９４）の調査によって「京都市立学校・幼稚園　名木百選」に指定され、また平成１３年（２００１）４月には山科区「区民誇りの木」にも選定されている。

　ただその由緒については、「由緒　昭和初期になんらかの記念として植樹されたようだが、経緯は定かでない」（冊子『平成６年度・平成７年度選定　京都市立学校・幼稚園名木百選』ｐ１２６）と記され、また平成７年（１９９５）８月の京都新聞記事「学校の名木５１　勧修校のクスノキ」でも「推定樹齢　約７０年、樹高　約１５メートル　幹周り　２・０５メートル」であり「校地の三方を鮮やかな緑で縁取られ、落ち着いた雰囲気の同校の南西部に、ひときわ高く、優しく立っている。昭和初期に何らかの記念として植樹されたようだが経緯は明らかでない（以下略）」と記されていて、ながらくその由緒については不詳であった。

　しかし勧修小学校１５０周年記念事業の取組の中で、ご協力いただいた地域の古老の話から、このクスノキは昭和１６年（１９４１）４月の入学時に植樹されたものであることが明らかになってきた。


　昭和１２年（１９３７）の「盧溝橋（ろこうきょう）事件」で日本と中国が全面戦争に突入していった同じ年、文部省の下に「教育審議会」（昭和１２年１２月～１７年５月）が設置された。実は、この「教育審議会」は戦時中の教育を考える上で、きわめて重要な役割を果たしていた。この審議会の設立目的は、君臣一体の家族的様相を帯びた国家観、つまり「国体の本義」の徹底を至上の価値体系とする皇国民の育成を目指すことにあった。審議会で審議・決定された教育全般にわたる方針は「教育の目的・方針は皇国民の鍛錬に置く」とされ、「教育内容も統合を図ることにより国民生活に即応せしむ」であった。そして、この方針は、昭和１６年（１９４１）の「国民学校令」により具体化されていったのである。この法律により、全国の小学校は「国民学校」と名前を変えた。

　「国民学校」は、国民学校令の公布から昭和２２年（１９４７）の学校教育法の公布まで存続した日本の初等教育学校（小学校）の名称である。従来の教科を国民科（修身、国語、国史、地理）、理数科（算数、理科）、体錬科（体操、武道）、芸能科（音楽、習字、図画及工作、裁縫）の４科に統合し、太平洋戦争への総力戦体制に対応して言行一致・心身一体の皇国民錬成の教育を目ざした。また学校行事や団体訓練も重視された。「鍛錬」この言葉が、この時代の教育のキーワードであった。

　勧修校も、昭和１６年（１９４１）４月１日に、校名が「京都市勧修国民学校」となった。教育も軍国主義教育の色彩が濃いものとなり、運動会や学芸会などで児童は、手に日の丸の旗を掲げて演技をする学校も多かった。ただ教育内容はともかく、学校体制自体には大きな変更はなかった。地域では、６月３日に「学区」を廃止し、「町内会」と呼ぶようになっている。同年１２月８日には「太平洋戦争」が始まる。

　校名を変えたこの年の４月、現在「京都市立学校・幼稚園名木百選」に指定され、学校のシンボルとなっている大樹、クスノキが植樹された。

　地域の古老の話では、当時一年生は「い・ろ・は」の３学級あり、３本のクスノキが植樹され、毎日水やりに精を出していたという。そのうち２本が現在まで大きく育ち、北側の木が指定を受けた。勧修校では他に入学時に植樹をしたという記録はないから、この年は「京都市勧修尋常高等小学校」から「京都市勧修国民学校」へと校名を変えた特別な年として、植樹を行ったのだろう。

　また木の横に（東面）「皇紀二千六百年」（西面）「勧修軍友会」と書かれた石碑が現存していることから、昭和１５年の「皇紀二千六百年」をも記念して、勧修軍友会（当時）が、費用を負担して植樹したとも考えられる。

　戦争により次第に食べ物も無くなっていく時代であり「農家が米を作っても（供出で）米が食べられない時代、さつまいもを食べるために、旧鉄道線（現在の名神高速道路付近）の築堤でさつまいもを植えた時代」（古老の話）でもあった。

　一本の樹木の中にも、貴重な学校の歴史が刻み込まれている。（鏡山次郎）