鏡山次郎のやましな 温故知新

295

鏡山次郎 作


7世紀の終わり、この地に天智天皇陵が造営される前には、操業はピタッと止んでいる・・・・須恵器窯跡と天智天皇陵【陵ヶ岡学区】


天智天皇陵(入口付近)


 この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス+」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。




 地下鉄御陵駅の少し西から「東山台」に登る道がある。三条通から車でも行けるが、けっこうな坂道で年配者には身体にこたえるだろう。上の方には琵琶湖疏水第2トンネルがある。

 なぜこんな坂道なのか。むろんそれは、山が近いためである。おそらく昔は山の尾根がこのあたりまで続いていたに違いない。

 東山台の住宅地の多くは「御陵封ジ山町」となっている。このあたり「日ノ岡堤谷町」の飛地もある。「封ジ山」という地名の由来については諸説あるが、一説では、昔この山で松茸が多く採れたのだが、他の村の者が入って採ってしまい困るので、御陵村が「山を封じた」ことに由来するという。アカマツが多かったに違いない。

 少し上がると黒岩公園があり、右手にマンションが見えてくる。この辺りで平成7年(1995)に、有名な「日ノ岡堤谷須恵器窯跡」(登窯跡)が発見された。この場所は「煙り出し口」で、登窯の焚口(たきぐち)は東側の永興寺参道あたりにあり、高低差は5~7mぐらい、マンションよりかなり低くなっている。山の斜面を利用したのだろう。

 古代の「須恵器窯跡」は、むろん山の斜面は必須アイテムだが、その他に①須恵器の材料となる良い土がある。②水を得られる川がある。③窯を燃やす木材が得られる。この木材は火力の強いアカマツが一番適しているという。

 この場所の近くには、50年ほど前までは砥之粉工場もあったように良い土を産した。そして旧安祥寺川が流れていて、山にはアカマツも多かった。こうした自然的条件は、古代から続いていたに違いない。それ故、この地に「須恵器窯」がつくられたのだろう。天智天皇陵付近、山科北西部には「須恵器窯跡」が数多く存在しており、操業時期は、6世紀末から7世紀中葉頃までとされている。

 ところか、7世紀の終わり、この地に天智天皇陵が造営される前には、操業はピタッと止んでいる。中には「天智天皇陵付近須恵器窯跡遺跡」というのもあり、これは天智天皇陵内に遺跡が存在している。陵墓の地として選定されたので、土地利用が制限され、操業を止めたのだろうか。

 「天智天皇陵」(御廟野古墳)は、671年12月3日,近江京大津宮で天智天皇が亡くなって、陵墓の地が選定されたが、その後「壬申の乱」で着工が遅れ、やっと699年に築かれたものである。従来は「上円下方墳」とされてきたが、最近の調査では「八角墳」で、下は方形の基壇ではないかとも言われている。墳丘本体の対辺長は、41.4m、高さ8.2m、方形基壇と言うべき下段の辺は63.75m、高さ2mの大きさである。

 『延喜式(えんぎしき)』(平安初期の法令集)には「兆域東西十四町南北十四町(約1500m四方)」とあり、現在よりかなり大きい土地を占めていて、安祥寺山の一部(鏡山など)も入っていたと推測されている。

 都が奈良へ移って、この陵墓を去る時、額田女王(ぬかたのおおきみ)は挽歌(ばんか)「やすみしし わご大君の かしこきや 御陵仕ふる 山科の 鏡の山に 夜はも 夜のことごと 昼はも 日のことごと 哭(ね)のみを 泣きつつ在りてや 百磯城(ももしき)の 大宮人は去(ゆ)き別れなむ」(『万葉集』)を残している。この挽歌の「鏡の山」が、後に、鏡山小学校・鏡山学区の呼び名の元となったのである。

 「天智天皇陵が何故、この山科に造営されたのか?」これについても諸説あるが、探ってみるとなかなか奥深いものがあるように思っている。(鏡山次郎)