鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

ちょっと見ただけでは、なんとも不可解な標識・･･･大津市との境界【大塚学区】

京都市と大津市との境界を示す標識

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　ちょっと見ただけでは、なんとも不可解な標識に見える。

　山科区の北東の端に位置する八軒屋敷町にあり、北側を向いて東西を走る旧東海道に面している標識である（写真１参照）。ここは、京都市と大津市との境でもある。

　標識は上下と２つあり、上の標識には「京都市」とあり、その下に左斜め上に向いた矢印がある。また、下の標識には「大津市」と書かれていて、その下には、右半分に右斜め下に向いた矢印、左半分に左斜め下に向いた矢印が書かれている。どうも、この上下の２つで、一つの標識を表しているようだ。

　私の解釈では、上の「京都市　←（矢印）」は、旧東海道の南側が京都市（山科区）で、西側も京都市（髭茶屋）だが、標識の場所より少し東側まで八軒屋敷町になっているので、左斜め上に向いた矢印は「ここまで京都市だ」ということを主張しているのではないかと解している。また下の「大津市　←（矢印）→（矢印）」は、旧東海道の北側は、東西とも大津市（追分町）であることを主張しているようだ。ただ、土地勘の無い旅人なら、何のことなのかさっぱりわからない。

　実は、京都市と大津市との境は、この辺りから追分道標付近までの１５０ｍぐらいは、道路の中央を走っている。山科から大津に向かう時、一緒に歩いていても、道の右側を歩けば山科区を歩いていて、左側を歩けば大津市を歩いていることになる。面白いのは、山科側を歩けば道に敷設されているマンホールのフタが京都市のもので、大津側を歩けば大津市のフタが見られるという点だ。

　このことは『東西南北』（ｐ10）（注）にも触れられていて「マンホールの競合」と題して、「旧東海道の追分付近では、京都市と大津市のマンホール蓋が並ぶというおもしろい光景が見られます。道に沿って市の境界があり、同じ道の地下に両市の下水道が並んで敷設されているためです」とある。

　このあたりの地名「髭茶屋」「八軒屋敷」は、地域は狭いが興味深い地名で、りっぱな大字（おおあざ）名でもある。

　この地域は、元々は「道林町」と称していたが、天正年中（１５７３年～１５９２年）に豊臣秀吉が西国に出兵する際にこの地を通過したとき、町の門々に桃燈（ちょうちん）を出して送迎したことから、秀吉は喜び、この地に「桃燈町」という名が与えられたという。そしてその後、秀吉が方広寺（東山区）の大仏を造営した際、街道の付け替えが行われたが、その新街道沿いに桃燈町から分離・独立したのが「髭茶屋屋敷町」と「八軒屋敷町」である。「髭茶屋」と言うのは、髭づらの老人が茶店を出していたところから、また「八軒屋敷町」というのは、移転当初の軒数が八軒であったところから、この名がついたと言われている。

　注目したいのは、桃燈町のその後である。本来は、桃燈町の中に髭茶屋屋敷町・八軒屋敷町を含んでいたと考えられるが、分離した際、桃燈町の残った部分は小さくなり、逆に「髭茶屋」に組み込まれたのであろうか、現在は「髭茶屋桃燈町」の小字（こあざ）名として、その名をわずかに残しているのみとなっている。（鏡山次郎）


＊（注）山科の魅力編集プロジェクト『京都山科東西南北　区民が選んだ魅力を訪ねて』（山科区役所区民部まちづくり推進課・平成２２年５月８日発行）