鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

この上から、東海道や渋谷街道を「様子見」したのだろうか・･･･御土居の森【山階学区】

御土居の森（山科本願寺土塁跡・山科中央公園内）

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　知らない方は「古墳か？」とも思う。

　山科中央公園内の北側にある土塁である。住宅地図には「御土居の森」と記載されているものもある。およそ南北６０ｍ、東西７５ｍ、高さ７ｍの土塁で、豊臣秀吉がつくった京都の「お土居」にもひけをとらない構えだ。

　上に登れる階段が４カ所あって、登って眺めてみると結構高い。面白いのは、南側のグランドはあまり低く感じないのに、北側はかなり低く感じる。北側には濠（ほり）があったのだろう。濠跡の一部は、現在は「自由広場」と呼ばれ、ゲートボールなどが行われ、市民の貴重な交流の場となっている。

　この土塁は中世の山科本願寺のもので、内寺内と外寺内とを隔てる土塁の北東角にあたる部分である。土塁を境に、北側は西野様子見町で、南側は阿芸沢町となり、町域もまた分かれている。この上から、東海道や渋谷街道を「様子見」したのだろうか。西野には、山科本願寺に関係すると思われる地名が多い。

　平成１４年（２００２）１２月に「山科本願寺南殿跡附山科本願寺土塁跡」として国史跡に指定されていたが、平成２４年（２０１２）に京都市埋蔵文化財研究所による山科本願寺跡の発掘調査で、室町時代の石風呂跡が見つかったことなどから、平成２８年（２０１６）３月に「国史跡　山科本願寺跡及び南殿跡」として追加指定された。

　山科本願寺については、「応仁・文明の乱」後の文明１０年（１４７８）１月に本願寺８世の連如上人が山科郷野村の「柴の庵」に移り住み、本願寺の造営を始めたことが始まりとされる。

　寺域は、主建築のある「御本寺」、坊官屋敷のある「内寺内」、門徒衆の住む「外寺内」からなり、その間に土塁と濠をめぐらした城郭的構築であった。これらは、一度にではなく順次つくられていったと考えられている。

　蓮如上人は明応８年（１４９９）に亡くなっているが、亡くなる少し前に輿（こし）に乗って、土塁の上に登って全体を見渡したという記録もあるから、ずいぶんと早い段階から土塁がつくられていたことがわかる。土塁をつくる際には、その外側に濠を掘って、その土を盛り上げて土塁にし、音羽川（山科川）・四ノ宮川などから水を引き込んだのだろう。

　『二水記』（室町時代の公家の日記）に、「そもそも本願寺の者、４～５代に及び富貴なり。栄華を誇る。寺中広大無辺、荘厳ただ仏国のごとし。在家又洛中に異ならずなり。居住の者、おのおの富貴なり。家々の嗜（このみ）は随分の美麗云々」（天文元年・１５３２年８月２４日条）とあるように、大いに繁栄していたことが伺える。

　しかし、山科本願寺は天文元年（１５３２）８月、戦乱に巻き込まれ、六角定頼（さだより）と日蓮宗徒によって焼き討ちにあって焼失する。これは同年、摂津・河内・和泉・大和などで農民の困窮が深刻になり激しい一揆（天文一揆）があり、その先頭に「一向宗」がたったことから、これを押さえるために、細川春元らが、対立する法華宗を利用して、東西から山科本願寺を襲わせたものと言われている。

　わずか５０数年の栄華の歴史であったが、現在でも山科では２つの別院（東御坊・西御坊）の他、浄土真宗本願寺派や真宗大谷派の寺院も多いなど、「山科本願寺」が残したものは、大変大きかったと言える。（鏡山次郎）