鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

“はねず踊り”と共に、多くの魅力を持ち人々を引きつける門跡寺院・･･･隨心院【小野学区】

隨心院“はねず踊り”（小野学区）

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　「京都山科の春は、隨心院“はねず踊り”で幕を開ける」と言われている。毎年３月の最終日曜日に披露され、見に行かれる方も多いことだろう。

　古くから地元で伝わってきた伝統行事だが、一時廃（すた）れていたのを、昭和４８年（１９７３）に地元の方々の努力で復興され、今では全国から、また遠くは海外からも観光客が押し寄せる。

　国史跡ともなっている隨心院境内だが、その中の有名な「小野梅園」は、戦時中は「さつまいも畑」に使われていたという。その土地を地元の方たちの努力で梅園を再建、踊りの復活となった。現在、小野梅園には「摩耶紅梅」（まやこうばい＝はねずの梅）を中心として、山紅梅・紅梅・白梅など約２３０本の梅の木が花を咲かせる。「はねず」とは、古代の日本で使われていた言葉で「薄紅色」を表し、“はねず踊り”は小野小町と深草少将の「百夜通い伝説」をもとに隨心院で踊られていた踊りを復活したものである。地元の小学校高学年の女の子たちが１年間以上練習を重ねて、美しく踊る。支えているのは「はねず踊り保存会」の地元の人たちだ。

　隨心院は、弘法大師の弟子である仁海(にんかい)僧正を開祖とする真言宗善通寺派大本山の寺院で、小野小町の屋敷跡の地とも言われている。正暦２年（９９１）に、仁海が創建し、当初は「牛皮山(ぎゆうひさん)曼荼羅寺(まんだらじ)」の塔頭であった。

　伝承によれば、仁海は夢で亡き母親が牛に生まれ変わっていることを知り、その牛を飼育していたが程なく死んでしまったので、仁海はそれを悲しみ、その牛の皮に両界曼荼羅を描き本尊としたことにちなんで、「牛皮山曼荼羅寺」と名付けたという。第５世の増俊の時代に、曼羅寺の塔頭の一つとして隨心院が建てられた。

　そして寛喜元年（１２２９）に後堀河天皇の旨により門跡寺院となった。その後、応仁文明の乱の時に寺はほとんどが焼失し、『隨心院史略』によれば、一時期九条唐橋や相国寺近辺などへ移転したそうだが、慶長４年（１５９９）にこの地に再興された。梅園をはじめ、百人一首で有名な「花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるがめせしまに」いう小野小町歌碑、化粧井戸、文塚、清瀧(せいりゆう)権現宮、仁海僧正供養塔など、見どころの多い寺院である。

　中でも「小野小町化粧井戸」は有名で、藪中の井戸水を小町が利用したことにちなんで、その水を「化粧水」と名付けたという。

　そして、隨心院の東側に「小町庭苑」とよばれる一角があり、その中に５つの球体石を５つ積み重ねたような「文塚」がある。小町には深草少将をはじめ多くの貴子達からラブレターが殺到したといい、しかしその誰にもなびかず、その文もこの文塚の中に眠っている。一説では「１０００通の文を埋めた」とも言われている。供養の意味もあったのだろう。

　ある「歴史ウオーク」で年配の女性の方々をこの「文塚」に案内した時、ひと通り説明したあとで、「皆さん方も若い頃は、たくさんラブレターを貰われたことと思いますが、その後、その手紙をどのようにされましたか？」と聞いてみた。多くの方は笑いを浮かべるだけで、答えてはいただけなかったが、ある方が小さな声で言ってくれた。「結婚が決まった時、他の人からもらったものは、全部破って捨てました。」

　ああ、そうだったのか。若い頃、私の送った手紙の行く末も、いま見届けたような気持ちになった。（鏡山次郎）