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本日はご多忙の中、「名月の夕べ（尺八演奏と講演会）」並びに「ふるさとの会設立（第１回）総会」に、たくさんの方にご出席いただきまして、本当にありがとうございます。
私事で何ですが、私は、山科の北花山という所で生まれました。鏡山小学校、花山中学校、洛東高校を卒業し、成人して就職したのもこの山科の地でした。そして半世紀以上をこの地で過ごし、おそらくは、自分の終焉の地もここになるのではないかと思います。
山科という土地は、私を産み、私を育ててくれた、私の「ふるさと」です。今回の「ふるさとの会」発足を皆様方に提案させていただいた根底には、こうした「ふるさと」への、私たちの思いが強くあります。
また、これは私たちだけではなく、山科に住んでおられる多くの方にとっても同様の思いがあるのではないかと思います。他の地域から移り住んでこられた方にとっては、山科は第二のあるいは第三の「ふるさとの地」であり、ある人にとっては、ここが終焉の地となるかも知れません。また、親はたとえ他に「ふるさと」と言える場所があったとしても、この地に生まれ、育った子ども達にとっては、山科こそが「ふるさと」であり、山科の未来の担い手でもあるわけです。こうした子ども達のためにも、すばらしい「ふるさと山科」を残してやっていかなければならないと思います。
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今から１００年前の山科は、宇治郡山科村であり、人口はわずか７，９８３人でした。その村が、やがて町になり、京都市に編入され、今や人口１３万５０００人を擁する都市へと変貌を遂げています。
しかしながら、現在の山科は、山科を経由して東西へと移動する「通路」であったり、あるいは、たかだか京都の東の端であり、郊外住宅地域としての位置づけでしかありません。
しかし、山科は、豊かな自然と歴史・伝統・文化・産業・まちづくりの力など、すばらしい魅力をたくさん持っています。山科疏水の景観をはじめ、毘沙門堂・勧修寺・随心院などの多くの社寺、数ある名所・旧跡。また、清水焼団地などの伝統産業と最先端技術を擁し、「陶器祭り」「楽陶祭」なども行われています。そして毎日数万人の乗降客があるＪＲ山科駅や地下鉄山科駅。さらに駅前のラクトビル群や、旧三条通り・醍醐街道の商店会のまちづくり運動など、さまざまな形で発展を見せています。
こうした発展の中で、この地に住む私たち自身が、自分たちの住まいであり、仕事場であり、故郷である山科について、もっともっと知り、理解を深めていくことが大切なのではないでしょうか。多くの人にもっと山科の魅力を知ってもらいたいと思います。それは、山科の魅力は広範囲で奥が深く、知れば知るほど好きになるのが山科だからです。日本のふるさと京都洛中にも負けない独自の自然・歴史・伝統・文化・産業・人なみが生きるまち、それが山科です。
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「山科」の名が歴史上はじめて登場したのは『日本書紀』で、天智８年（６６９）５月５日の条に、「（天智(てんぢ)）天皇、山科野に縦猟(かり)したまふ」と書かれているのが最初だと言われています。それから、１３４０年を経た現在もなお、私たちは普通にこの地を「山科」と呼んでいます。
しかし、この「山科」という言葉自体も、何度か歴史から消えかけたことがありました。一度目の危機は、昭和６年（１９３１）、当時の宇治郡山科町が京都市東山区に編入されたときでした。しかし、これは当時の山科町会（町議会）の決議もあって、何とか「京都市東山区山科」というように、山科の地名が残りました。
また、昭和５１年（１９７６）の山科区独立の際にも、「山科」の名が消える危機がありました。昭和５０年（１９７５）年６月に「京都市分区調査会」が設置され、東山区と右京区の分区が答申されましたが、山科に関しては、「洛東区」「東区」案もありました。もしこれらの案が通っていたとしたら、現在私たちは、この地を「洛東区」とか「東区」などと呼び、「山科」については「昔は、そういう名前で呼ばれていた」という程度になっていたに違いありません。
しかしそれをさせなかったのは、調査会委員の一人として、当時、音羽学区自治連合会会長でもあった川中朝次郎さんや、市の山科支所長であった四宮豊さん、この方は初代の山科区長さんですが、そうした方をはじめとした地元の声であったといいます。こうした「山科」への愛着・熱意の声の中で、この地は「山科区」として誕生を見たのです。
「山科」という名前そのものも、決して自動的に続いてきたわけではありません。人々の心の中に、意識化され主張されなければ、名前すら伝承されないのです。「山科」という名前は、こうして、地元の先人たちの熱い思いの中で守られ、伝えられてきました。こうした思いを、私たちもまた引き継いで行く必要があるだろうと思います。
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過去の歴史をなくしたところには、新しい歴史は何も生まれません。それは、過去の歴史の積み重ねに現在があり、未来はその上に積み重ねて行くものだからです。
私たち人間は、何もないところからものを創り出すことは出来ません。私たちがもし「未来」というものを創り出すことができるならば、それは現に今あるものをふまえてでしかできません。ところがその「現に今あるもの」とは、好むと好まざるとに関わらず、「過去」の積み重ねの中でつくられてきたものです。だから未来を創り出すことにいかに情熱を持っていたとしても、やはり過去を無視するわけにはいかないと思います。いやそれ以上に過去を良く知っている者こそが、すばらしい未来を創り出すことができるのではないでしょうか。
多くの人たちに、自分の住んでいる地域の過去を、そして山科の歴史を知ってもらいたいと思います。それは、「ふるさと」の未来をつくる営みに必要だからです。歴史に学び、過去の中で現在に活きている、あるいは活かしうるものを学んで、それを活かすことを通じて、確かな山科の未来を、みなさんと共に展望したいものです。
こうして、１３万５０００人が支える山科として、今後とも発展していく地域となるに違いありません。安心して暮らせる山科、ここに住んで良かったと思える山科、二千年の歴史・文化・伝統を受け継ぎ、さらに発展させる山科へと、大きな歩みを進めるに違いないと思います。
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これが私の故里（ふるさと）だ さやかに風も吹いている （中原 中也）
ふるさとの山に向かいて いうことなし ふるさとの山は ありがたきかな （石川 啄木）
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ふるさとへの思いは、異境の地にある人ほど強いと言われます。それはまた、過ぎ去った日の思い出と重なるからです。自分の懐かしい思い出と結びつかない限り、そこは「ふるさと」とは言えません。ふるさとが自分に何かをしてくれたから、というのではありません。そこで自分が生きたこと、その地に自分が関わったということ、そこにさまざまな思い出があるということが貴重なのだと思います。
私たち大人にとっては、自分の「ふるさと」は、さまざまな場所、さまざまな思い出であるかも知れませんが、この山科で生まれ、育ち、この山科を「ふるさと」とする子どもたち、またこれから生まれてくるであろう子どもたちには、ぜひ、すばらしい「ふるさと山科」を残してやりたいものです。
今回、こうして「ふるさとの良さを活かしたまちづくりを進める会」（略称：ふるさとの会）を、みなさんと共に発足させることができました。これから、みなさんと力を合わせて、ふるさと山科のために、有意義な活動を、そしてまた楽しく取り組んで行きたいと思います。
どうぞ、よろしくお願い致します。
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発起人代表 浅井定雄（筆名：鏡山 次郎）
（平成１９年（２００７）１０月２６日 設立総会 於：厨子奥公会堂）
＊なお、掲載内容は当日の挨拶文を一部修正した内容になっています。
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発起人挨拶文 