鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

焼亡した後の山科本願寺の土地は、どのように推移したのか････山科本願寺跡【西野学区】

山科本願寺跡史跡公園

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　『二水記』という室町時代のお公家さんの日記に、「そもそも本願寺の者、４～５代に及び富貴なり。栄華を誇る。寺中広大無辺、荘厳ただ仏国のごとし。在家又洛中に異ならずなり。居住の者、おのおの富貴なり。家々の嗜（このみ）は随分の美麗云々」（天文元年・１５３２年８月２４日条）と栄華を誇った山科本願寺は、天文元年（１５３２）８月２４日、戦乱に巻き込まれ、近江の守護六角定頼（さだより）と法華宗徒の攻撃を受け、山科本願寺と寺内町は炎上・焼失した。黒幕は山城国守護であった細川晴元である。

　「折れ」と呼ばれる最先端技術を駆使した三郭構造の土塁や、濠（ほり）で囲まれ、「環濠城塞都市」とまで言われた本願寺や寺内町が、なぜそんなにも簡単に落城してしまったのか。

　『私心記』（注１）には「昨日より今日まで城中静かにして強なり。然る所、兵庫介、和睦として人質に出て、源次郎内へ取る時、諸勢、水落より乱入して、火かけ候」とある。つまり、山科本願寺の土塁や濠が強固で落ちないため、「人質を出す」と見せかけ、だまして城門を開けさせて「水落」（オチリ池付近と思われる）からなだれ込んで、火をかけて焼亡させたのである。

　『経厚法印日記』（注２）によれば、その前日には「山科本願寺へ勢遣。此口へは京中の日蓮宗、所々尽員出張。上下京衆、日蓮門徒は其寺々に所属了。山村五郎左衛門等罷向了。東口は、自大津、六角方衆。シル谷（渋谷）口へは柳本衆。此外五十余郷衆は、東岩蔵山の上に雑居云々」と、東西から山科に進入し、「外堀」とも言える山科七郷の各村々を焼いている。

　こうして山科本願寺は焼亡した。同年９月３日には、細川晴元の家臣柳本衆が「山科本願寺の城を、わる（破壊する）」として山科に入る。そして跡地は１０月１６日には法華宗の支配地となる。しかし天文５年（１５３６）に、今度は「天文法華の乱」で京都の法華衆は壊滅し、法華衆徒は洛外に追放された。この年、本願寺は山科での再興を試み、大工の棟梁に柱を建てさせる「柱建て」を行っている。しかし、再興を断念したのか、証如上人は天文７年（１３８７）には「還住しない」（山科には戻らない）ことを明らかにした。

　その後一時期、山科が公方（室町幕府）御料所となったり豊臣秀吉のものになったりしたが、天正１４年（１５８６）１２月に、豊臣秀吉が山科本願寺地のうち２０石を本願寺に与えた。また元和元年（１６１５）には徳川家康もこの２０石を「安堵」した。この間、浄土真宗本願寺派第１２世の准如上人は、この地に「坊舎建立」を計画するが、これは旧地をすでに「芝地」として利用していた農民たちの反対に遭い、実現はしなかった。

　江戸時代に入って、本願寺は「東本願寺」「西本願寺」と分かれた。これに伴い山科の地を巡って、慶安３年（１６５０）に争いが起こったが、結局どちらの所有権も認められず、土地は「奉行所預かり」となった。

　焼亡からちょうど２００年後の享保１７年（１７３２）、東西本願寺の山科別院建立が始まる。西御坊は同年完成し、東御坊は用地の変更などで少し遅れたが元文元年（１７３６）に完成した。別院近くの「御本寺・内寺内」等の跡地は「古屋敷」と呼ばれ、農民たちが「竹木・牛馬放し・肥芝刈り」などに使っていたようで、その利用を巡って西野村と東野村で何度か「争論」（あらそい）も起こっている。元々この地は段丘で水利が悪く、作物の生育には適さなかったし、また許可もされなかった。

　しかし、明治に入ると、西野山村庄屋要助らが京都府に対して本願寺地の「芝地開墾」を請願する（明治２年５月）。これには京都府もすぐに応えて、同７月、京都府は西本願寺に対して「字　古屋敷寺内芝の畠開（畑地への開墾）を許可するように」との命令を出す。

　こうして土地の開墾が始まった。

　その後、この土地がどのようにして現在の姿になったかについては、また別の機会に書いてみたい。（鏡山次郎）


（注１）『私心記』　蓮如上人の第２７子順興寺実従の日記、１５３２年８月２４日条

（注２）『経厚法印日記』　青蓮院門跡坊官鳥居小路経厚の日記（１５３２年８月２３日条）