鏡山次郎のやましな　温故知新

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鏡山次郎　作

「男子の多くは帽子を用い女子は洋傘を用いて流行を追い、新奇を競う」・･･･１００年前の山科【山科区】

１００年前に志賀直哉が住んでいたことを示す旧居跡碑

　この作品は、京都市山科区役所の公式アプリ「やましなプラス＋」のコラムに掲載された鏡山次郎の作品を、山科区役所の了解を得て掲載しているものです。

　「１月往（い）ぬる、２月逃げる、３月去（さ）る」と言って、月日の経つのは早い。うかうかしていると、もう年の暮れだなんてことになりかねない。

　高齢になると残りの日数は少ないのだから、一日一日を大事に過ごさなければいけないのだが、理想と現実は別物で、ついつい無駄な時間を多く過ごしてしまう。


　今年は西暦２０２３年だ。１００年前の山科にはどんなことがあって、先人たちは、どのような生活をしていたのだろうか。「ふるさと山科の歴史年表」（『山科事典』掲載）をめくってみる。

　１９２３年は大正１２年である。この年の１０月２６日には、竹鼻に志賀直哉が住居を構えている。大正１４年（１９２５）４月７日に奈良に転居するまでの約１年半の間、この山科で過ごした。

　どんな家だったのだろうか。「志賀直哉旧居跡碑」には、「細い土橋、硝子戸、池庭のある一軒家で、その清澄な文学のように美しい山科の自然に囲まれた静かな住まいであった」と書かれている。自然豊かで静かな山科だったのだ。

　またこの年の５月２５日には『京都府宇治郡誌』が発刊されている。当時の山科は「宇治郡山科村」だったから、山科のことも詳しく書いている。この本を手引きに、当時の山科の人々の暮らしを少し覗いてみることにする。

　「衣」に関しては、「男は角帯に代わり兵子（へこ）帯が多くなり、袢天（はんてん）に代わり羽織が多くなり、その丈も著しく長くなった」とある。また「男子の多くは帽子を用い女子は洋傘を用いて流行を追い、新奇を競う」ともある。山科にも近代化の波が押し寄せているのが感じられる。

　「食」に関しては、「昔は休日等の他は麦飯や粥（かゆ）を常食としていたが、今は米飯を食する者多く、昔は魚肉であったが今日に至っては一般に鳥獣の肉を食せざる者はない。酒は、昔は濁酒（どぶろく）であったが、一般に清酒を用い、また麦酒（ビール）・葡萄酒・ウイスキー等の洋酒を用いる者もいる」とある。食生活もだんだんと現在に近づいてきているようだ。

　「住」に関しては、「昔は藁（わら）葺き屋根多く、畳も奥の間だけで、他は筵（むしろ）を敷き天井を張らない家も多かったが、次第に瓦屋根となり畳を敷き詰め、天井を張り、書院、玄関に至るまで善美を競う」とあり、「昔は土蔵・門のある家は一部だったが、今は中流以上の家に広まっている」ともある。また「昔は燧石（ひうちいし）で点火し硫黄にて行灯に種油を用いていたが、燐寸（マッチ）を使用し洋灯（ランプ）に石油を用いるようになり、近頃はほとんどが電灯に変わってきている」と書かれている。こうして見ると、１００年前の山科も、現在の２０２３年と同じように、人々の生活に急激な変化の波が起きていた年であったことがわかる。

　ただそんな中で、変わらないものもある。「食に関連せる習慣」として、「（１・２月略）３月節句には草餅を製して雛祭をし、５月５日端午の節句は茅巻（ちまき）餅・柏餅を製す。６月晦日（末日）は水無月と称し小麦団子を食し、８月盂蘭（うら）盆には牡丹餅（ぼたもち）を製し、重陽の節句（９月９日）には栗飯、･･･」とあり、毎月何らかの節目があり、お祝いをしている。山科でこうした風習はずっと続いてきたものだ。これからも長く続けて、伝統行事をみんなで守って行きたいものである。（鏡山次郎）