京都山科　陵ヶ岡・鏡山　二千年の歩み

第九章

鏡山次郎　著

「京都山科　陵ヶ岡・鏡山　二千年の歩み」（2007年5月20日出版、つむぎ出版）

	第九章 鐘紡山科工場　女工たちの大ストライキ
	第九章（１０）鐘紡争議──争議団デモ、山科工場で警備隊二〇〇名と衝突
	鐘紡山科工場のあった場所（太線で囲んでいる部分）
	山科工場では、工場側が女工たち対して「自発的に団結して、自重することを申し合わせ、断じて騒がないこと」という宣誓書を出させていたために、最初に争議団に参加したのは寄宿舎を抜け出した男子工十五名であったが、その後女子工を含めて四、五十名にふくれあがり「山科争議団」として他の工場の争議団と共に闘いを行っていた。これに対して工場側は「極度に周章狼狽を始め愈々警戒厳重」となっていたが、ついに五月二十一日、争議団デモが警備隊二〇〇名と衝突するという事件が起きた。当時の日出新聞は次のような記事を載せている。（意訳＝鏡山次郎） 　（五月）二十一日、午前二時に上京工場本部を出発した一七〇名余りの争議団員が、午前五時過ぎ山科駅に列車が着くと同時に、山科支部の四、五十名と合流し、直ちにデモをしつつ、出勤の職工に対する『かり出し（争議団への参加呼びかけ）』を試みようと、山科工場前の鉄条網警戒線の第一通用門にさしかかった所、酒気を帯びた警備団側の挑発的態度に端を発して、二～三の口論から、双方激昂(げきこう)し、ついに衝突。警備団側はこん棒等をもって打ちかかり、争議団は空手をもってこれに応じ、ついに争議団側の二〇〇余名と警備団側の二〇〇名近くとが入り乱れて一大乱闘を演じた。驚いて戸外に駈けだした町民を、警備団側が構内に引っ張り込んで袋だたきにするなど、刻々危険に瀕した。山川警部補率いる警察隊が到着し、鎮撫(ちんぶ)につとめたので約三十分の後、鎮撫したが、争議団側には十六名の打撲傷者を出し、警備団側からも三名の負傷者を出した。 （『日出新聞』一九三〇年五月二十二日）  　当時の鐘紡山科工場の正門は、現在の山科消防署前の交差点あたりにあり、裏門は山科中央公園南西（テニスコート）の角の交差点あたりにあった。「第一通用門」がどこかはよくわからないが、おそらく正門かあるいはその西隣（現在の今屋敷公園）辺りにあったのではないかと考えられる。ここに「荷出場(にだしば)」や「事務所」があったからである。

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